大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)4160号 判決

被告人 佐藤安雄

〔抄 録〕

検察官の控訴趣意は、本判決末尾添附の控訴趣意書に記載のとおりで、要するに、原判決には、判決に影響を及ぼす程度の事実誤認ありとなすものであるから、これについて判断する。本件公訴事実は別紙公訴事実と題する書面に記載のとおりであるが、そのうち、まず、被告人が右公訴の日時にA方においてB外二名の友人等と共に飲食して一応寝についたが翌日(昭和二七年四月八日)午前三時過頃右Bの身体が右A方の南縁側から外の庭に出るに至つたこと、そのとき被告人もBの身辺にいたこと而して間もなくBの身体がその庭の南端にある崖から落ち込み、その下を流れている川の水中に入つて溺死したことは、原審第一回公判調書中被告人の供述記載部分、当審証人Aに対する尋問調書および医師O作成の鑑定書を綜合することにより明らかである。そこで、次に、Bの身体が縁側から屋外に出たこと、および崖から河水に落ち込んで溺死したことの原因につき討究するに、所論は、Bが酪酊して寝ながら大声でわめきつづけてやめないので、被告人はこれをうるさがりBをかかえ起して縁側から押し落し、その暴行によりBが崖から川に落ちたとなすのであるが、此の点につき所論に引用された被告人の司法警察員に対する各供述調書および原審証人Aの各供述調書によるも到底斯る被告人の暴行および之れとBの顛落溺死との因果関係とを認めるに十分な証明はなく、却つてAに対する原審および当審の各証人尋問調書並びに原審および当審の各検証調書を綜合すると、当時Bが酪酊して、寝ながら大声で同人の親睦の仲の某女の名を呼び且つ同女に話しかけるが如き内容の独言をわめきつづけ、また、飲食物を吐いて苦しんだりしているので、被告人は、少し外気に触れて酔をさますようBに勧め、同人もこれを承諾したが、酔つていて歩行する力も十分でないので、被告人はBの体に両手をかけて抱えてやるようにして同人を縁側の南端まで連れ出し、そこから軒下の庭にBがおりるのを手伝つてやり、B自らも幾分自力が残つていて、右のように手助けを受けており立つたが、それから数分(一分乃至五分位)の後その縁端から約一二尺南の崖から川の中に落ち込んで溺死したものなることが認められる。而して、右縁端の直下の地面から約一二尺南の川縁までは大体平坦な庭状で、人体が縁端近くに出た場合自然に転落するような急坂ではなく、而も一二尺の中程には東西の川沿いに高さ約四尺、長さ約二一尺の物干竿が杭にさげて設置されていて、若し人体が何かの理由により縁側から押し出された場合にも一応は、その竿によつて支え止められるのを自然とする状態に在つたことも前記証人Aの各尋問調書および各検証調書等によつて明らかである。故に、Bが崖から落ち込んだ原因については、自殺のためか、咄嗟の衝動で深い理由もなく飛び込んだのか、それとも酔余意識不鮮明で歩き廻るうち思わず足を踏みすべらしたものか等純理としては色々な場合を考えられないではないが、いずれにしても、被告人が前記の如くBに手を貸して縁側から庭におろしてやつたことが直接の原因となり、そのまま顛落したものとみるに十分な証拠はない。

故に、結局これと同趣旨に出て、被告人には所論の如きBに対する暴行はなく従つて被告人の所為とBの死亡との間に相当因果関係もないものとして被告人に無罪を言渡した原判決には所論のような事実誤認ありとは認め難い。論旨は理由がない。

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